夫の取引先で仲良くしている年配の方からペットのカナリアを譲り受けました。
お子さんが可愛がっていた小鳥だけれど、大学進学を機に家を離れて下宿することになったためということでした。
「手放すにしてもきちんと可愛がってくれる人に託したい」ということで、鳥好きの私に白羽の矢が立ったようです。
結婚前はずっと何かしらの小鳥と一緒に暮らしていたのですが、結婚してからは新生活になじむのに必死で何も飼っていない状態でした。
ずっと「文鳥かセキセイインコが欲しい」と夫に言っていたけれど、「いつかね」と流されていたのです。
最近は生体を扱うショップも近所になくて、無理やり自分で飼ってしまうこともできませんでした。
そんなときに夫から「○○さんがカナリアをもらってほしいと言っている」という話があったのです。
カナリアの飼育は始めてでしたが、とにかく小鳥と暮らしたかったので即OKしました。
飼育書を何冊も買い、ネットでも調べたりして準備万端、ある土曜日にオレンジ色のカナリアがやってきました。
不安そうに小さい声で「ピィ、ピィ」とつぶやくように鳴く「彼」を初日は私たちの姿が見えるけれど構い過ぎない程度にして落ち着いてもらうことにしました。
「よく歌う鳥」という話でしたが、我が家に来て2週間ほどは不安そうな「ピィ」しか聞くことができませんでした。
私としては歌っても歌わなくてもいい、とにかく彼が新しい家になじめるように・新生活も悪くないと思ってくれるようにしようと必死でした。
専用の餌に加えて好きそうな青菜やニンジン、オレンジ・りんごなどの果物などを与えていました。
ケージのそばを通るたびに話しかけたり、ゆっくりお茶を飲むときにもケージの近くに座って私の姿になじんでもらえるように努力しました。
そんなある日、細く小さい声ながら文字通り「鈴を振る」ような歌が流れてきました。
彼が歌い始めたのです。
最初は時々咳き込むような音が入り、うまく声が出ないような雰囲気でした。
ところが日がたつにつれ、その声はどんどん力強く・メロディーも節回しも軽やかに立派なカナリアソングになっていったのです。
私は大喜び、彼が歌っているときには家事の手をとめて聴いていました。
最初は「やっと落ち着いたみたいだねえ」と喜んでいた夫は、あまりのボリュームの大きさに「テレビが聞こえない」などとぼやき始める始末です。
特にSF映画で宇宙船が出てきて宇宙人と戦うとかカーチェイスなど派手なアクションのシーンになると彼の歌が始まります。
アクションシーンにも負けじと声を張り上げるのです。
息詰まるアクションのときに、カナリアの歌はなんだかとても妙です。
しかもそれが雄たけびというか突撃の合図というかカナリアの歌なんだけれど、ある意味、勇ましい雰囲気があります。
家に遊びに来た友達が、最初は「カナリア飼ったのね。」と笑っていたのが、そのうちに「本当にカナリアかな。何か別の鳥かしら。」と言い出すこともありました。
カナリアというと優雅で控えめな鳥、というイメージしかなかったのです。
気が強くて甘えん坊の文鳥や陽気で華やかなインコしか飼ったことのなかった私に「雄々しいカナリアもいるのだ」ということを教えてくれた「彼」です。
最近は少し年をとってきたからか、勇ましい歌も落ち着いた雰囲気になってきました。
いつまでも長生きして現役の歌手を続行して欲しいと願っています。